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広尾学園高等学校

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スクール特集(広尾学園高等学校の特色のある教育 #2)

広尾学園のiPadを活用した授業~高1 理科総合A(物理)実験~

問題解決能力を鍛える教育

広尾学園では、受験学力の先を見据え「自ら問題を解決する能力」の育成に力を入れています。

新たな取り組みとして、2011年より医進・サイエンスコースでiPad(Apple社)を導入しました。学習や学園生活のなかで、最新型のiPad2が活用されています。
軽量化の進んだiPad2は動作が速く、カメラも内蔵されるなど、学校での活用にも適したツールになっています。

医進・サイエンスコースは、医学部・難関大理系学部への進学をめざす高校3年間のコース。
生徒一人1台iPadを所有し、各自の調査やレポート作成、グループでの研究などに役立てています。また、授業における活用も始まっています。

今回、iPadを用いた物理の実験の授業を取材しました。一般的な授業では、あらかじめ実験方法が決められており、実験器具も先生が用意してくれます。生徒は先生の指示に従って、実験をします。
しかし、今回はそれとはまったく異なる授業が行われます。先生は実験の目的だけを示し、生徒は実験方法から調べるというものです。授業を受けるのは、医進・サイエンスコース第1期生の高校1年生38名です。

一人1台iPadを活用した「重力加速度の測定」実験

実験は3学期の1月末に行われました。2時間連続の授業、サイエンスラボ3で実施します。
新校舎には化学・生物・物理専門の3つのサイエンスラボがあり、大学研究室レベルの設備が備わっています。DNA操作や細胞培養など、高校の枠にとらわれない高度な実験が可能です。

授業の初めに、先生が実験の目的と作業の手順を説明しました。目的は「この場所の重力加速度を、なるべく高い精度で求める」というもの。
地球の形はいびつな球形であり、また地球内部の状態も地域によって異なるため、重力加速度は測定する場所・地域によって多少の差があります。
標準重力加速度の値は国際的に9.80619920m/s2(メートル毎秒毎秒)と定められています。今回の実験でも、できるだけ9.8に近い値が得られるよう、正確に行うことが求められます。

作業の手順は、
[実験計画作成]→[先生に計画申請]→[実験・解析]→[発表]。

「実験の方法や必要な器具など、すべて自分たちで調べて行ってください。時間の許す限り、様々な方法で実験し、測定精度を高めよう」
先生の話が終わると、生徒は班ごとにただちにiPadでインターネット検索を開始。実験方法について調べ始めます。

班で活発に話し合い、実験や器具について検討する生徒たち。その一人に今日の授業について質問すると、
「重力加速度の求め方などはすでに授業で学んでいるけれど、実験についてはなにも教えられていません。まったく始めから自分たちで調べています」

生徒たちはプリントに実験図を描き始め、器具のリストを挙げていきます。記録タイマー、記録テープ、おもり(100g×1)、定規、はさみ・・・。
授業開始から10分~20分ほどで、ほとんどの班がラボ内の器具を選び、そろえました。なかにはだるま落としで遊ぶときに使うだるまのこけしを用意する班も。

授業開始30分後には、おもりを使った自由落下の3回目の実験に取りかかる班もみられました。おもりの落下の速度を記録タイマーで測る実験です。
振り子を使った実験を行っている班もあります。

授業も半ば、ある班ではiPadで熱心になにやら調べています。この班は、おもりの自由落下の実験をすでに終えているそうです。
「何種類もの方法でやってみたいから、別の実験を調べています。それで測定精度の高い数値を出したい。中学時代の実験も思い出しながら考えます」
答えてくれた女子生徒はとても真剣な様子。

「これどう?」
女子生徒はiPadを友だちに示し、新しい実験を提案。
「でももう少しで休み時間になっちゃう。じゃあ返上してやろうか。滑車、滑車!」
次は滑車を使っての実験に着手するそうです。

みんな休み時間を忘れて実験を続けています。担当の先生とサポートの先生も班を回り、生徒の質問に答えたりアドバイスしたり。ラボは賑やかです。

だるま落としの班はどうしたでしょうか。1.5mの高さからだるまを落下させ、それをiPadで撮影、落下時間を計測するという実験に取り組んでいます。

「『ベストショット』というアプリ(アプリケーション、以下アプリ)を見つけたので、使いました。0.03秒のきざみで落下を連写します」
「その記録から重力加速度を出そうと」
男子生徒たちが生き生きと説明してくれました。

だるまを落下させる役、撮影役、データの整理役など、班で手分けして進めます。
実験データは、iPadの表計算アプリ『Numbers』に入力して表・グラフを作成、解析して重力加速度の値を出します。

時間も迫るなか、多くの班は実験を終え、解析する段階に入りiPadに向かって奮闘中。なかなか難しそうです。
なにに苦労しているのでしょう。『Numbers』の操作でしょうか? 先生に聞いてみました。

「Numbersはすでに学んでいるので、データを入れグラフ作成を指定するなどの操作はできるはずです。難しいのは、得られたデータの処理のしかたですね。計算式の作り方です。物理の問題で悩まなくてはなりません」

授業終了20分前。先生が声をかけます。
「さあ、発表しよう。どこまでできたか、どんなデータが得られたか。また得られなかったとしたら、どうすればいいか。精度がよくなかったとしたら、どうしたらいいか。班ごとに発表しなさい」

Apple TVを活用し、『Numbers』で処理した実験結果をホワイトボードに映して発表します。
先生がそれぞれの班に質問し、アドバイスを与え、実験について評価していきます。

振り子の往復時間から重力加速度を導いた班は、iPadで調べるうちに授業ではまだ習っていない計算式にたどりつき、この式を用いて解析し9.82という高い精度の値を導きました。

斜面に台車を滑らせ、iPadで撮影して距離と時間を測った班は、授業で学んだ基礎をもとにして計算式を組み立て、9.21の値を出しました。
この班はおもりの自由落下の実験も行い、それは9.75の値。実験の精度の比較や改善点について考えを述べました。

だるまを落下させてiPadで撮影した班は、10.1の値を導きました。「写真撮影だと不正確になるのでは思ったけれど、けっこう精度高く出せることがわかったね」と先生。

全部で10の班が発表、すべての班が一生懸命実験に取り組み、成果を得たことが伝わってくる内容でした。

その成果とは、実験結果だけではありません。この経験によって、調べ方や実験方法などについて、一人ひとりが新たな発見や、新たな課題を見出したようです。それこそが大きな成果といえるのではないでしょうか。

学園では、内容の理解を促すための実験(demonstration)だけでなく、問題解決能力を鍛えるために自ら調べ、自ら考える本当の意味の実験(experiment)をめざしているといいます。その意図がしっかりと反映されていることが、今日の実験の授業からわかりました。

こうした授業に、iPadが大きく寄与していることもわかりました。授業時間内に、実験と同時進行的に個人で調査し、その場で小さな自己解決を重ねながら、大きな問題解決にたどりつくための有効な手助けとなり、また調査の自由度も高めます。

さらに、さまざまなアプリの使用によって実験方法の幅が広がります。“与えられた方法”ではなく、“自ら調べ、判断し、選んだ方法”で行うという生徒主体の活動に、iPadを役立てています。

解析に必要な作業や発表のための資料作成も短時間ででき、その分さらに高度な問題解決学習へと進むことができると考えられます。

このような学習活動は、学ぶ意欲や挑戦する力の育成にも結びついていくことでしょう。

現在、学園では他教科に対応した学習アプリの採用や、学習自己管理システムの構築なども進めており、今後さらに活用の範囲を広げていきます。

理科部長 石田 敦先生のお話

授業では常にわからないことは自分で調べるという習慣を身につけさせるようにしています。情報収集力も大事です。
理科だけでなく、もちろん情報の授業でもインターネットを活用した調査について学び、ネットにあふれる情報の正誤や質を、自分で見極める力を高めています。
iPadを使うことのメリットは、小さくて軽く、携帯に向いているということ。実験のかたわら、片手に持って調べることもできる。Apple TVでプレゼンテーションもできます。

今日の実験は、事前にヒントなど一切与えていません。ただし、こちらで生徒たちの実験方法を想定し、映像アプリなどを事前に入れておきました。
教科書に載っていることだけを学んでもつまらない。教科書の枠内のストーリーに沿って学ぶしかないからです。
今日の実験では振り子を使って実験する班もみられましたが、振り子についてはまだ教科書には出てきません。
でも、情報を収集し、授業ですでに学んだことを総合すれば、生徒は自分でたどりつくことができる。

だから、一斉に同じ方法で実験する必要はないのです。こうして自由に実験させることの魅力は大きいですね。
生徒の物理への興味も深まるでしょう。今後もいろいろな実験でiPadを活用するつもりです。

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