私立中学

女子校

じょしびじゅつだいがくふぞく

女子美術大学付属高等学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(女子美術大学付属高等学校の特色のある教育 #5)

新たな挑戦や学びの集大成として、自由に取り組む「卒業制作」

女子美術大学付属高等学校の3年生は、3月の卒業制作展に向けて2学期後半から制作に取り掛かる。絵画、デザイン、工芸・立体の各コースで、どのような作品が制作されたか取材した。

女子美術大学付属高等学校では、3年生は3月の卒業制作展に向けて2学期後半から美術科の担当教員らとプランの意見交換を行い、制作に取り掛かる。新しい分野に挑戦したり、学んできたことの集大成として自由に取組む卒業制作は、作品を通して生徒たちの成長を知る機会でもある。2012年から東京都美術館にて、女子美術大学・大学院・女子美術大学短期大学部と合同で作品を展示。絵画、デザイン、工芸・立体の各コースで、2024年度の最優秀賞に選ばれた3名に話を聞いた。

絵画コースの最優秀賞受賞者にインタビュー

Tさん(絵画コース)
100周年記念大村文子基金女子美美術奨励賞(最優秀賞)
タイトル「心象風景」(キャンバスに油彩 F100号)

――最優秀賞を受賞した感想を教えてください。

Tさん びっくりしすぎてまだ信じられないのですが、好きなものを描いて、それが認められたのが本当に嬉しいです。

▶︎Tさん

――この作品を制作しようと思ったきっかけを教えてください。

Tさん 最初に、過去に自分が描いた作品を振り返りました。振り返る中で、メインではないモチーフまで詳細に描き込みすぎて、絵の中に奥行が出せないという弱点を克服したいと思ったんです。そこから試作として小さいキャンバスに描いてみたのですが、描いていて全然楽しいと思えませんでした。それで、自分が描いていて楽しい絵ってなんだろうと考え直しました。ヒントになったのは、高2と高3で受けた想定油彩の授業です。テーマはあるものの比較的自由にテーマを解釈して、自分の好きな雰囲気で絵を描ける授業でした。そこから、私はちょっとどこか変な絵や没入感があるような絵、1枚の絵の中にいろいろな質感のある絵などが好きなんだということに気づいたんです。その気づきから、この作品にたどりつきました。

――どのようなところを工夫しましたか?

Tさん 構図と絵肌の質感を工夫しました。例えば、絵の外にもまだ世界が続いているような感じを出したかったので、あえて左右のモチーフを切ったりしています。木の後ろに見える風景を連想できるように、手前の木をものすごく邪魔な位置に配置しました。質感については、ペインティングナイフで絵の具を盛り付けたりすることによって、ボコボコさせたり、画材も油絵の具だけでなく、クレヨンやオイルパステルにも挑戦しました。

――悩んだところはありますか?

Tさん 川を描きたかったんですが、自分の選んだ色や描く線が全部思っていたようにいかない時期がありました。本当にどうしようかと悩んで先生に相談したら、旧中川水辺公園という場所を紹介していただいたので、そこへ取材に行きました。この時に得たことが、すごく大きかったです。例えば川は、イメージだけではなくて、実際に動いているところも見ないと表現できないものがあるとわかりました。川から帰ってきたら色が乗るようになったのは、そういったことに気づけたからだと思います。最初はのっぺりした絵になっていたんですが、だんだん色に深みが出せるようになっていって、完成させることができました。

――女子美で学んだことで印象に残っていることを教えてください。

Tさん 同じ絵とずっと向き合い続けることの大切さです。途中でやめないでずっと考えていたら、割といい感じになるんだなということがわかりました。人間関係も、ほかの学校と違ってみんな美術が好きですし、趣味とかもみんな違うから面白いです。

――今後の目標を教えてください。

Tさん 大学は洋画専攻に進みますが、絵本なども描いてみたいですし、粘土もこねてみたいし、いろいろなことをやりたいなと思っています。

デザインコースの最優秀賞受賞者にインタビュー

Fさん (デザインコース)
100周年記念大村文子基金女子美美術奨励賞(最優秀賞)
タイトル「私の宝船」(パネルにアクリルガッシュ F130号)

――最優秀賞を受賞した感想を教えてください。

Fさん 「やったー!」って感じでした(笑)。最初からこの賞を目指して、この賞を取るために頑張ってきたので本当に嬉しいです。電話で受賞を告げられたのですが、大泣きして、人生で一番嬉しいと思いました。自分の中で最高傑作が描けたと思っていたので若干の自信はありましたが、不安もあって、受賞するまではいろいろな思いがありました。

▶︎Fさん

――この作品を制作しようと思ったきっかけを教えてください。

Fさん 卒業制作は、卒業する自分へのお祝い品として作品を描こうと思ったので、おめでたいイメージの絵にしようと決めました。おめでたいものって何だろうと考えたときに、ヒントになったのが舟盛りのお刺身です。私はお刺身がとても好きなので、旅行中に船盛りのお刺身を食べたときに「美味しいし、おめでたい感じ!」と思って、そこから発想を得て宝船の構図が決まりました。

――どのようなところを工夫しましたか?

Fさん 私は、植物や食べ物のみずみずしさや彩度を実物よりも高め、より美しく描くスーパーリアリズムという画法が好きなんです。モチーフを実際に買ってよく観察して、より美しく描けるように努力しました。自分が好きな画法だったので、描いていてとても楽しかったです。

――卒業制作はどのように進めましたか?

Fさん 他のことにも言えると思いますが、1つ大きな目標を立てて作業を進めて行くことが大事だと思っています。私の場合は、それが最優秀賞だったんです。過去の受賞作品を何十回も見返して研究して、計画を立てていくと、小さな目標も自然と見えてきました。それを1つずつこなしていくことで、最終的に大きな目標を達成できたのだと思います。

――卒業制作の思い出を教えてください。

Fさん 卒業制作は辛くて大変というマイナスイメージがあるかもしれませんが、女子美らしい思い出ができる時間でもあります。もちろん辛い瞬間もたくさんありますが、友達とアドバイスし合ったり、休み時間に先生とたくさん話したり、ふざけ過ぎて呆れられたことも全部が本当に楽しかったです。

――女子美で学んだことで印象に残っていることを教えてください。

Fさん 高3は週10時間も美術の授業があって、本当に濃い時間を過ごしました。先生も各コース4人ほどいらっしゃって、いろいろな意見を言ってくださるので、それぞれの意見を自分の中で吸収して実行に移していくことで、大きな学びにつながっていくと思います。私は部活動を通して、美術以外の面でも成長を感じています。6年間バレーボール部に所属していましたが、先輩や後輩との関係とか、同輩と意見が合わなかったときなどに悩んだこともありました。そんなときに、自分で考えて解決するという経験が何度もあったので、いろいろな面で成長できたと思います。

工芸・立体コースの最優秀賞受賞者にインタビュー

Iさん(工芸・立体コース)
100周年記念大村文子基金女子美美術奨励賞(最優秀賞)
タイトル「今ちょっと頑張ってる」(ミクストメディア 150 × 90× 100)

――最優秀賞を受賞した感想を教えてください。

Iさん 本当に信じられなくて、今も実感がないままです。

▶︎Iさん

――この作品を制作しようと思ったきっかけを教えてください。

Iさん 小さい頃から動物が大好きで、動物関係のものを作りたいと思っていました。どの動物にするかがなかなか決まらなくて、とにかく迫力がありそうな動物を探っているうちに期限が迫ってきたので、「もうこれにしちゃいなよ!」と周りから後押しされたのがゴリラでした(笑)。もともとは、ゴリラがバナナを食べまくっている様子を作ろうと思っていましたが、アイデアが行き詰って友人に相談した時に、友人が使っていた新聞紙にたまたまゴルフの広告が載っていたんです。ゴリラがゴルフをしていたらかわいいんじゃないかというところから発展して、編み物になりました。チンパンジーだと器用そうなイメージですが、ゴリラの不器用そうな感じと編み物の組み合わせがかわいいなと思ったんです。

――材料や制作過程について教えてください。

Iさん まずは、ひたすらデッサンとクロッキーを重ねて、体の構造、質感、凹凸などの全体的な特徴をつかんでいきました。立体制作においては、観察して理解するということがとても重要な工程の1つだと思います。私は上野動物園に行って、実際にゴリラを観察しました。腕と足の骨の割合を理解するために、骨格も何パターンか描き起こしています。特徴がつかめたら、スタイロフォーム(建築用に用いられる発泡断熱材)をボンドでくっつけて直方体にして、カッターやヤスリでゴリラの形に削り出していきました。形が仕上がったらガーゼをボンドでつけて補強して、最後に色塗りをして完成です。編み棒やバナナも手作りしています。

――どのようなところを工夫しましたか?

Iさん 写実的な表現が好きなので、筋肉や姿勢を少し誇張してゴリラの筋肉質な感じを出しつつ、彫りながら編み物と不似合いなゴリラの野生的な感じを調節していった点です。背中もぜひ見てほしいのですが、大きな体で頑張って編み物をしている様子から不器用そうでかわいい面を表現できたと思っています。

――女子美で学んだことで印象に残っていることを教えてください。

Iさん たくさんありますが、一番は多様性を受け入れるところかなと思います。いろいろな趣味を持つ人がいて、最初はすごく驚きました。私は高入生なんですが、内進生は個性を持っていて当たり前という雰囲気だったので、それが女子美のよいところだなと感じています。美術については、立体の構造を知らないと平面も描けないんだなと思いました。絵画が好きで女子美に入ったんですが、立体を触り始めたら立体をやってみたくなって工芸・立体コースを選びました。骨格みたいなのを意識し始めてから絵を描いたら、以前と全然違う描き方になっていて、しかもうまく描けるようになっていたんです。絵画の見えていない部分まで意識して描かないと、きちんと描けているとは言えないのだと気づきました。

――今後の目標を教えてください。

大学では立体アート専攻に進みます。木彫にすごく興味があって、大学で何かしらをつかんで、それを就職や職人になるための修行みたいなのに活かせたらいいなと思っています。


<取材を終えて>
最初は、弱点を克服するような絵を描こうとしていたが楽しいと思えなかったTさん。最初から最優秀賞を目指して目標を立てたFさん。友達が使っていた新聞紙からヒントを得たIさん。最優秀賞となった作品を作り上げた3者3様のストーリーが、大変興味深かった。3人以外の生徒たちにも、それぞれに完成までのストーリーや成長があったことだろう。最優秀賞以外の受賞作品も同校のホームページで公開されているので、それぞれの作品に込められた思いを感じていただきたい。
卒業制作2024

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