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スクール特集(中村高等学校の特色のある教育 #2)

“言葉のシャワー”で人生の幅を広げる「日本語道場」

すべての学問、学力の土台となる日本語力を鍛えるために、様々な取り組みを行っている中村中学校・高等学校。中・高通して取り組む「日本語道場」とは?

同校では、日本語力を鍛えるために国語科が中心となって様々な取り組みを行っており、それらを「日本語道場」と呼んでいる。国語の授業(中3)を取材し、授業を担当した国語科の板倉瞳先生と国語科主任の菊地貞志先生に話を聞いた。

“言葉のシャワー”で語彙を増やす

国語科が中心となって行っている取り組みを「日本語道場」と呼んでいるが、何か特別なことをしているわけではない、と菊地先生は語る。

「例えば、漢字の小テストや読書指導、教科の枠を越えてとにかく文章を書いて形に残す『100本表現』。本を読んだら『読書ノート』に感想を書き、行事があれば文集を作り、キャリアデザインの授業で毎回ワークシートに感想を書いて振り返るなど、どれも特別なことではありません。授業中だけでなく、学校生活のすべてが日本語習得の場であるという意識で行っています」(菊地先生)

今の時代は、スマホなどから個別に情報が得られるので、インプットもつい好きなものばかり選んでしまいがちである。そういった環境が、語彙を増やす機会が減った一因ではないかと菊地先生は考えている。

「今の子どもたちの会話を聞くと、語彙が少なく、表現の幅が狭いと感じることが多いです。昔と比べて、おじいさんやおばあさんから昔の言葉や話を聞く機会も減っていますし、周りにいる大人も少なくなりました。ですから、私たち教員が日本語の使い手として、一番身近な大人でありたいと考えています。授業中に限らず、日常的に“言葉のシャワー”を浴びせて、多様な言葉を投げかけていくことが大切だと思うのです。難しい言葉でも、とにかくジャブジャブ浴びせていきます(笑)」(菊地先生)

受験という近い目標に関しては、「言葉をたくさん知っている者が勝つ」と生徒たちに説明している。しかし、語彙を増やすことは、その先の人生においても大きな意味があるという。

「語彙は、人生の幅を広げます。語彙が多い方が人間的な幅も広がり、人との付き合いの幅も広がり、幅広い人生が送れるのです。最小限の語彙で『通じればいい』という発想を捨てなければ、人生の幅は広がりません。私自身も、生徒たちから新しい言葉を学ぶこともあります。若者の言葉を知ることは面白いですし、自分の語彙が増えることも嬉しいです。こちらが面白いと感じていれば、生徒たちも面白いと感じてくれると思うので、日常の何気ない会話も大切にしていきたいと思っています」(菊地先生)

▶︎国語科主任・菊地貞志先生

▶︎国語科・板倉瞳先生

国語に対する苦手意識をなくす様々な工夫

読書指導としては、毎朝のホームルームで10分間「朝読書」を行い、静寂の中で文章に触れる時間を作っている。様々なジャンルの本に触れてほしいという思いから、国語科が推薦する図書100冊を紹介した冊子『中村の100冊』を全校生徒に配布。教員の名前入りの紹介文とともに各学年に適した本が掲載されており、本を手に取るきっかけとして活用されている。『先生からのLOVE CALL』は、理事長や講師も含めた全教員が薦める本を紹介。生徒たちはそれらを参考に本を読み、1冊読んだ後には「読書ノート」に感想を書いて提出する。「読書ノート」は、国語科の教員が漢字や文章表現のチェックをして返却。教員からのコメントが、生徒たちの励みになっていると板倉先生は語る。

「書いたものは添削して返すのが基本なので、たくさん赤を入れても生徒たちはへこたれなくなっていきます。本が好きな生徒は語彙も豊富です。文章力もどんどん磨かれて、校内の読書感想文コンクールで6年連続入賞して、そのうち5回は最優秀賞を受賞した生徒もいました。“言葉のシャワー”をたくさん浴び、自分で語彙力を身に着けて、国語が得意な子はどんどん伸びていきます。苦手な子でもわからないことはそのままにせず、困ったときには教員を頼ってくれるので、まったく何も書けないような子はいないと思います」(板倉先生)

教員に頼るだけでなく、自分で調べて語彙を増やしていけるように『1000語引き』という、紙の辞書を活用した取り組みも行っている。紙の辞書には、周りの言葉も一緒に覚えられるよさがあるので、紙の辞書のよさとICTのよさを、それぞれ使いわけて活用していく。生徒の興味や関心につながるように教材なども工夫しているという。

「例えば、便覧に載っている四字熟語を二文字ずつに分けてパズルにしました。いきなり意味を覚えさせようとしても、つまらないと感じたら頭に入っていきません。まずは、意味はわからなくても、楽しくパズルに取り組みながら『見たことがある』状態にしていければいいなと思って作りました。生徒たちはゲーム感覚で盛り上がり、気になった熟語は自分で便覧を開き、意味などを調べて覚えていきます。同じように、文学史を覚えるきっかけになるように、作者・代表作品・冒頭文の短冊も作りました。正しく組み合わせて年代順に並べかえたり、かるたのように『太宰治の代表作!』と読んだら『走れメロス』や冒頭文を探したり、みんなで楽しく取り組めます。高校生にも使っていますが、覚えやすいと好評です」(板倉先生)

中3が「創作四字熟語」にチャレンジ

語彙を増やしていくために、外部の検定やコンクールなども利用している。漢字検定の取得に向けて、漢検協会が小学生向けに制作した謎解きDVDなどの教材も活用。漢字に対する苦手意識をなくして、受検してみようという気持ちになれるように働きかけている。住友生命が募集する「創作四字熟語」は、その年で一番印象に残った出来事をオリジナルの四字熟語で表現するという「ことば遊び」だ。「創作四字熟語」に取り組むのは今年で3回目となる、中3の授業を取材した。 

授業が始まると、生徒たちは3~4人のグループに分かれて、iPadで2020年の出来事を調べ始めた。今年一番印象に残った出来事を選んだら、既存の四字熟語から一文字漢字を変えたり、音を似せたりして、オリジナルの四字熟語を完成させる。

「アベノマスク」「イソジン」「10万円」など、新型コロナウイルスに関連した出来事について話し合うグループもあれば、韓国ドラマやアイドルグループなど、好きなことから題材を見つけるグループもあり、それぞれが活発に意見交換。応募期間中のため完成した熟語は紹介できないが、一斉休校になってリモート授業をしたこと、競泳の池江璃花子選手が闘病生活を乗り越えて復帰したこと、将棋で藤井聡太二冠が活躍していることなど、それぞれの思いを込めた四字熟語を完成させた。

授業を終えた板倉先生は、「今年は新型コロナウイルスの影響で、暗い熟語が多くなりそうでしたが、明るい熟語も多かったのでよかったです」と振り返る。iPadを活用するグループワークには、どのような狙いがあったのだろうか。

「出来事を探しながら今年を振り返るには、iPadが役立ちます。探しながら『これってなんだっけ?』『こんなことがあったよね』と口に出したり、『こういうことを書きたい』などと言葉にしたりすることで、周りからいろいろな意見が出てきて、考えていることが形になってくるのです。それがグループワークのよさだと思います」(板倉先生)

「創作四字熟語」は、1年の出来事を漢字四文字で振り返る「ことば遊び」である。四字熟語を創ることを通して、いろいろな情報を吸収し、自分なりに工夫することが大事だと菊地先生は語る。
 
ことば遊びや洒落の感覚は同音意義語や和歌の掛詞にもつなげられます。楽しく創作しながらそれらがどこかで結びつけばよいと思って取り入れています」(菊地先生)

中3の生徒2人にインタビュー

――「創作四字熟語」の授業では、どのような熟語を作りましたか?

Iさん 2020年のニュース一覧を1つ1つ見ていたら、甲子園での大会が中止になったニュースがありました。いろいろ中止になった中で、オリンピックは今のところ「延期」とあったので、来年開催できたらいいなという思いを込めた四字熟語を創りました。

Mさん 「2020年のいいニュース」で検索したら、水泳の池江選手の記事がありました。病気を乗り越えて復帰したことはすごいことだと思うので、応援の気持ちも込めた四字熟語を創りました。

▶︎写真左より:Iさん、Mさん

――グループワークはどうでしたか?

Iさん 1年生か2年生のときに、1人で考えたことがありますが、全然思いつきませんでした。グループワークだと、「こういうニュースがあるよ」とか「こんな四字熟語があるよ」などと教え合うことができるので、1人で考えるより楽しくてやりやすかったです。

Mさん それぞれが創ったものですが、友達の四字熟語にも私の意見が入ってるし、私の四字熟語にも友達の意見が入っています。他の人から意見を聞くと、自分が思っていなかった考え方なども知ることができるので、1人でやるよりグループでやった方がいいと思いました。

――読書やレポートなどを書くことは好きですか?

Iさん 本を読むのは好きです。書くのは苦手ですが、前より書けるようになりました。この学校では、宿泊行事の事前学習としてiPadを使ったプレゼンを行うなど、プレゼンの機会が多くあります。たくさん読んだり書いたりすることで、そのようなときに発表する力もついてきました。作文などをたくさん書くことで、語彙も増えて文章力が磨かれるので、コミュニケーション力も高まるのだと思います。

Mさん 理系科目の方が好きで、国語は苦手です。入学したばかりの頃は本を読むのも嫌いで、同じ行を何度も読んでしまってなかなか進めませんでした(笑)。朝読書で毎朝読むことに慣れてきたら、国語の問題を解くときもスムーズに読めるようになってきたと感じています。授業でも、たくさんノートに書く先生のときは、頑張って書いたりしているうちに、前より書けるようになりました。

――国語力が他の教科にも影響していると感じることはありますか?

Iさん 英語の長文読解などで、しっかりと読み取らないといけない部分があるので、国語力がないと英語もできないと思います。数学でも、問題文を雑に読んでしまうと正解を導き出せませんでしたが、きちんと読めるようになったらケアレスミスも減ってきました。

Mさん 理科や社会の記述式問題で、自分なりに答えが書けるようになりました。数学では、問題文が難しくて、きちんと読めないと問題が解けないこともあるので、読解力が高まれば数学の問題ももっと解けるようになると思います。

――今まで受けた中で印象に残っている国語の授業を教えてください。

Iさん 四字熟語のパズルに挑戦した授業です。漢字四文字を見ただけで覚えたくなくなってしまい(笑)、苦手意識がありました。でもパズルになっていると、班の人たちと楽しみながら組み合わせていき、自然に熟語を覚えられます。苦手意識や抵抗もなくなってきて、実力テストなどで出てきたときに「あの時やった熟語だ!」と思い出せるようになりました。

Mさん 漢検のDVDを見て、謎解きをした授業です。国語の知識だけでなく、頭が柔らかくないと解けない問題もあり、ヒラメキを使って解くのが楽しかったです。漢字に限らず いろいろな問題が出てきたので、たくさんのことを学べたと思います。

――この学校のいいなと思うところを教えてください。

Iさん 先生と生徒、先生同士、先輩と後輩、同級生など、人との距離が近いです。人数が少ない分、ほかの学校より距離が縮まりやすいのかなと思います。例えば、体育祭は6学年の縦割り班で行うので、年の離れた先輩や後輩とも仲良くなれます。先生1人に対して生徒の数が少ないので、悩み事があるときなども相談しやすいです。

Mさん この学校は英語にも力を入れていて、中学2年生全員で、外国の方に深川を案内するプログラムなどがあります。中学に入ってから英語が教科として始まって、最初は苦手でしたが、このようなプログラムに参加するうちに頑張ろうと思うようになりました。先生と生徒の関係もよいと思います。先生と生徒という立場はわきまえていますが、友達のような存在でもあります。いつもは友達に悩みを聞いてもらいますが、その友達とケンカをしてしまったときなどは、先生に相談します。 

日々の積み重ねが安定した力に

同校では国語の授業に、書く内容や着眼点を鍛える「クリティカル・シンキング」を導入。敬体(ですます調)と常体(だである調)の書き換え、話し言葉と書き言葉への書き換えなどから始めて、課題作文や意見文に取り組んでいく。表やグラフを読み取って考えを記述する課題では、国語以外の知識も必要になるという。

「例えば、農村部での人口の推移を表すグラフについて説明する問題では、年代から時代背景を読み取って都市部への人口流出を導き出すためには、社会科で学んだことと関連させる必要があります。また、『オムライスとはどういうものか説明しなさい』という問題では、答が1つではありません。『米と肉や野菜を炒めて卵で包む』といっても、卵やご飯にはいろいろなタイプがあります。『先生、ご飯はケチャップライスだけでなく、バターライスのもありますよ』と言って来る子がいたりして(笑)、生徒たちの反応から教員側も様々な気づきがあって面白いです」(板倉先生)

“言葉のシャワー”をたくさん浴びて、読書や書く機会を積み重ねてきた生徒たちからは、どのような変化が感じられるのだろうか。

「学年が上がるにつれて、書くことに抵抗がない子が増えていると思います。書く機会が多いほど抵抗はなくなり、極端に国語が苦手な生徒はいなくなってきている印象です。山の裾野から頂上に向けて着実に積み重ねていくイメージなので、実力テストなどでも点数の上がり下がりが激しい子はあまりいません」(菊地先生)

積み重ねの成果は、大学入試対策でも感じとれる、と板倉先生は語る。

「総合型選抜(旧AO入試)のサポーターをしていると、理系の子でも、まず自分で書くことができ、書いたものに対して違和感が感じ取れるようになっています。例えば、この言葉遣いはよくないと思うが、どう直していいのかわからない、などの相談が多いです。日本語の表現には、場面や感情に合わせて適切な言葉があります。それが適切に使えるようになれば、深みや温かさなどの人間味がでてくると思うのです。より多くの日本語を知って、自分の気持ちを適切に伝えられるようになってほしいので、今後も様々な工夫をしていきます」(板倉先生)

<取材を終えて>
「語彙を増やすことで、人生の幅が広がる」という菊地先生の言葉がとても印象的だった。語彙が多ければ、コミュニケーション力も高まり、新しい出会いや才能を活かすチャンスも広がるだろう。語彙を増やす“言葉のシャワー”を効果的に浴びせるためには、教員と生徒間の距離が重要だと思う。距離が遠いとシャワーも届かないが、取材した授業やインタビューから、とてもよい距離感だと感じられた。同校では「能率手帳スコラ」や「読書ノート」などを通して、教員と生徒間で交換日記のようなやりとりがある。そういった積み重ねが距離を縮めて、信頼関係を築くことにつながっているのだろう。

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