スクール特集(女子美術大学付属高等学校の特色のある教育 #4)

高校3年次に大学の授業を先取り履修! 高大連携でスムーズな進学を実現
女子美術大学付属高等学校では、女子美術大学と連携した多様なプログラムを用意。今回は、3年次に大学の単位が取得できる「科目等履修」と「特別授業」を取材した。
女子美術大学付属高等学校では、高校3年次に大学の授業を履修できるシステム「科目等履修」を15年前に構築。高校で履修する科目にプラスして、積極的に大学の授業を履修しようとする生徒が年々増えている。昨年度からは、共通教養科目を幅広く受講できる「特別授業」もスタート。それぞれの特色について、横江和子先生(高3担任)と大学の授業を履修している高3の生徒に話を聞いた。
大学の教員による授業を体験できる多様なプログラム
同校では、女子美術大学・女子美術大学短期大学部と連携した多様なプログラムを用意している。キャリア教育の一環として、中1からすべての学年を対象に行っている中高大連携授業もその1つだ。大学の教員からより専門的な指導を直接受けることは、大学で学ぶ各専攻への理解を深めることに繋がっていると横江先生は語る。
「本校の生徒は、約8割が女子美術大学へ進学します。付属校であることを活かし、大学の授業がどのようなものか体験できる中高大連携授業をすべての学年を対象に行っています。大学の教員による授業を受けることにより、生徒が考えている進路とギャップがないかを具体的に考えることができるようになるのです。また、高校では触れてこなかった分野に興味を持つきっかけになる機会でもあります。中高大連携により新しい分野との出会いが用意されているのも、付属校ならではの強みだと思います」(横江先生)
一方、「科目等履修」は希望者が学びたい授業を選んで受講することができ、大学の単位も取得できる。
「科目等履修は、より意欲的に体験してみたい、高校にない分野も先取りしたいという高3生徒が大学の授業を受講できるシステムです。1科目2単位で、前期と後期それぞれ2科目まで履修できるので、最大8単位が取得できます。延べ人数では年間30名ぐらいが受講しますが、1年間受講し続けるのは容易ではありません。高校の授業が終わってからキャンパス内にある大学の教室へ行き、16時40分から90分間の授業を受けるので集中力を保つだけでも大変です。試験や評価についても、大学生と同様に扱われます。それでも頑張って受講している生徒たちは、興味のある分野への関心を深め、大学生活をより具体的にイメージできるようになっていきます」(横江先生)
▶︎横江和子先生
2023年度からスタートした「特別授業」
「科目等履修」が任意であるのに対し、「特別授業」は高3生徒全員が受講。登校日となっている約2週間で、一般教養の授業を幅広く受講して大学の単位も取得できる。
「文化人類学、ジェンダー論、法学、経済学、国際関係論、生命科学、心理学など、社会人の教養としても基礎になるものを幅広く受講できるようになっています。1日2コマ(科目によっては4コマ)の授業を約2週間受けて、出席率とレポートによって2単位が取得可能です。昨年度からスタートしましたが、『高校では取り扱わない分野の授業は新鮮に感じた』『90分授業も初めての体験だったので、入学前に準備ができてよかった』などの声がありました。大学の先生方は、『このような分野に興味があれば、ぜひこの授業を取ってほしい』という話もしてくださるので、入学後に履修する授業を決める際にも役立っているようです。また、通常は半年間の授業で取得する2単位を入学前の約2週間で取得できることは、より充実した大学生活を送るためのアドバンテージにもなっています」(横江先生)
「特別授業」は昨年度からスタートしたばかりなので、大学との連携を取りながらさらにブラッシュアップしていきたいと横江先生は語る。
「大学の先生方は、大学生が半年間受ける授業と同じ感覚で授業を行っています。先生の問いかけ方も高校とは違いますし、高校生にとっては大人扱いされていることへの戸惑いもあるようです。高校生でも大学をイメージでき、かつ、高校生にもよりわかりやすい内容になるように、大学と連携を取っていきたいと思っています」(横江先生)
「特別授業」(法学)
取材当日は、女子美術大学で法学(日本国憲法)の授業を担当している川又伸彦先生による「特別授業」がオンデマンドで行われていた。
川又先生は、「法学を学ぶということは、条文を暗記することではありません。問題によっては条文だけで解決できることもありますが、今私たちが生きている社会は複雑であり、様々な問題がいろいろな形で起きています。ですから、単純に条文だけで物事が解決するとはいえないのです」と説明。その具体例として、日本国憲法第24条「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」が挙げられた。伝統的には、夫婦は男性と女性で成り立つものだと考えられてきたが、現代社会では男性と女性のパターンだけではなくなってきている。同性婚について考えるとき、「第24条」をどう解釈するかが議論されていることなどの説明を受けて、高校生たちは法学を学ぶ目的への理解を深めていった。
高3の生徒にインタビュー
Yさん(高3 中入生)
Tさん(高3 中入生)
――女子美で過ごした6年間で印象に残っていることを教えてください。
▶︎「特別授業」に真剣に取り組むYさん(写真左)とTさん(同右)
Yさん 中学からの6年間は、色鮮やかな思い出でいっぱいです。行事が盛り上がり、女子美らしさが出ていると思います。例えば、運動会にも美術的な要素がたくさんあって、小学校とは全く違った新しい世界との出会いがありました。特に印象に残っているのは、高3の「着付けリレー」です。生徒がリレーをしながら担任の先生に衣装を着せていく競技で、衣装のデザインや縫製もすべて生徒が担当します。最終的には先生が何かのキャラクターに変身するので、毎年楽しみでした。高校生の応援合戦では、音楽や衣装、ダンスの振り付けなどを生徒たちが手がけて踊ります。すべてが小学校とは違っていたので、とても新鮮でした。
Tさん 私も行事が印象に残っています。女子美祭(文化祭)では、クラス展示をするためのオーディションがあります。私のクラスは毎年受かっていたので、展示の準備に携わることができました。今年は壁に絵を描いたのですが、思いきりの精神が必要だったので、精神的な強さも身についたと思います。入学当初は個性の強さに驚いて、馴染んでいけるか少し心配しましたが、新しい経験がたくさんできて6年間楽しく過ごせました。
――女子美術大学への進学が決まっているそうですが、どの専攻に進みますか?
Yさん デザイン・工芸学科環境デザイン専攻です。ガラスが好きだったので大学でもガラス工芸に進みたいという気持ちもあったのですが、建築やインテリアにも関心がありました。悩みましたが、住宅のインテリアを提案する人になりたいと思う気持ちの方が強かったです。ガラスは卒業制作でやりきって、大学ではインテリアの方に進むことにしました。
Tさん 私は共創デザイン学科に進学します。様々な分野の人たちと、新しい価値を創造する「共創型リーダー」を目指す学科です。将来はおもちゃ関係の仕事をしたいと思っていたのですが、美術史を深く学びたいという思いもありました。女子美では授業でプレゼンをする機会が多かったので、友達と協力して進めていくことがとても楽しかったです。そのような経験を重ねるうちに、企業の企画部に入るための力を身につけたいと思うようになり、共創デザイン学科に進もうと決めました。
――「科目等履修」ではどのような授業を受講しましたか?
Yさん 「数理科学」と「カラーコーディネート基礎」を受講しました。大学生になったら、サークルやアルバイトなど、やりたいことがたくさんあります。留学なども視野に入れると、高校生のうちに単位が取れるのはとても魅力的です。キャンパスライフをより充実させるために、少しでも早く単位を取っておきたいという思いがありました。高校生のうちに大学の授業を受けられるのは、貴重な機会だと思います。
Tさん 私も「数理科学」と「カラーコーディネート基礎」を受講しました。大学の授業 は90分あるので、集中力が必要になります。レポートの課題なども未知の世界でしたが、 高校生のうちに練習できてよかったです。練習しておけば入学してから戸惑うことも減り、単位も取りやすくなるので魅力的な制度だと思います。
――実際に受講した感想を教えてください。
Yさん 高校の授業とは、かなりギャップがありました。高校では、先生やクラスメートと話しながら授業を進める感じでしたが、大学の授業は先生の話を聞いて自分の中で消化して個人で進めていくイメージです。内容もより難しくなっていて、レポートでは自分の意見もしっかりと書かなければなりません。大学生は1人の大人として扱われていて、細かく言わなくてもできるだろうと、個人に任されていると感じました。社会に1歩近づいたようでもあり、高校3年生と大学1年生の差は大きいこともわかってよかったです。
Tさん 板書が少ないことが衝撃的でした。中学や高校では先生が板書したことを中心にメモしていきますが、大学の授業は先生が板書することはほとんどなくて、教科書の図を見せたりしながら口頭で説明することがほとんどです。今は慣れましたが、最初の頃はどこをメモしていいかわかりませんでした。先生がドライな感じなのが、中高との大きな違いだと思います。
――高校の授業後に大学の授業を受講するのは大変でしたか?
Yさん 最初の頃はとても大変でした。最終下校時刻より遅くなるので疲れもありましたが、続けていくうちにだんだんと慣れていきました。
Tさん 最初は大変だなと思いましたが、美術の補習でも残ることがあるので、残ることに対して嫌だという気持ちはなかったです。授業時間が50分ではないので、高校の授業後に90分プラスされることは集中力の面で大変でした。
――「特別授業」を受講して、どのように感じましたか?
Yさん 「科目等履修」で大学の授業に慣れていたので、戸惑うこともなく受けられました。「科目等履修」で大学の授業を1年間受講した経験は、大きな力になっていると感じます。
Tさん 私も、大学の授業に慣れてきたと感じています。レポートを重ねてきたので、文章を書くことの抵抗も少なくなってきました。
――「特別授業」を受けてみて、大学でも受講したいと思った授業はありましたか?
Yさん 西洋美術史が面白そうだと思いました。高校でも美術史はありましたが、さらに深掘りしたいので、大学でも受講したいです。
Tさん もともと美術史を学びたいという思いがあったので、私も美術史の授業をより受講したくなりました。西洋美術史だけでなく東洋美術史もあり、それぞれの魅力があります。
――大学の授業を受けて成長したと感じたことを教えてください。
Yさん 女子美生は作品の制作などもあって忙しいので、その中で大学の授業も受講するには計画性が必要です。私は、「科目等履修」で計画性が身についたと実感しています。大学に入学したら、新しい環境への不安や焦りなどもあると思うので、「科目等履修」で入学前に授業の雰囲気などを知ることができてよかったです。
Tさん 「科目等履修」で大学レベルのことが学べて学力的にも伸びたと思いますし、わからないことに対しても抵抗なく取り組めるようになりました。90分間集中力を保たなければならないなど、これから4年間取り組んでいくことに、高校生のうちに慣れておくことができてよかったです。
<取材を終えて>
大学では自分の時間割を自分で決めなければならないので、初めて共通教養科目(一般教養)を選ぶ際には戸惑うことも多い。「特別授業」は1月に実施されるので、4月から大学生になる生徒たちにとっては大学での授業を具体的にイメージできる非常によい機会であると感じた。先生との相性などもあるので、実際に授業を受けてみて決められるのは、付属校生ならではの強みとなるだろう。